むずかしい日本語の数と数え方
日本語の数の数え方はむずかしい、といいます。個々の事例の説明はあっても、なぜそうなるのか、を解説した本は、あまり見当たりません。そこで今回は、みなさんの役にたつように、数とその数え方を分かりやすくまとめました。
日本語には歴史的にみて、二通りの数え方があります。その一つは漢語系。漢字とともに中国から入ってきた数え方で、現代の日本でもっとも普通に使われているものです。
*注意点 4(よん)、7(なな)は【和語系】の数え方、9(キュウ)は、(ク)の後から日本にきた漢字音です。
日本は中国から文字を輸入した
日本列島では古くから日本語が話されていて、数を数える方法もありました。しかし、それを書いて記録する文字がありませんでした。それで、東アジアで数千年前から圧倒的な先進文化を持っていた隣国の中国から、文字(漢字)を仕入れ、それを使って自分たちの日本語を書くようになりました。たとえば「山」という漢字は、日本語の意味から「やま」と読み、一方その当時の中国の音を借りて「サン」と読みました。それで日本の漢字には、意味をあらわす「訓(クン)読み」と、音をあらわす「音(オン)読み」という、二種類の読み方ができました。
しかし漢字はもともと中国語を表記する文字なので、系統のちがう日本語を書くには、いろいろと不便な点があり、やがて漢字から「片仮名(カタカナ)」や「平仮名(ひらがな)」という日本独自の文字を作りだし、日本語を自由に書けるようにしました。こうして現代の日本語の表記法である「漢字かな交じり」ができあがりました。
そして漢字だけでなく、中国から先進的な政治・経済・文化・宗教などが、日本に入って来るようになり、数え方も漢字の音によって数える漢語系が取り入れられて、それが、だんだん主流になっていったのです。*この文章では「漢語系」をカタカナ(イチ、ニ、サン)で、「和語系」をひらがな(ひ、ふ、み)で書くことにします。
むかしからあった日本語の数え方
一方、漢字が入ってくる前から、日本人の生活の中で使われてきた和語(日本語)で数える和語系の数え方もありました。それは以下のようなものです。
歴史的に言えば、日本の数の数え方は、もともと「ひ、ふ、み」だったところに、中国から「イチ、ニ、サン」(当時の中国語音)という数え方が導入され、政治・経済など公的な場面で使われることが多くなり、次第に主流になっていったわけです。
もともと日本にあった和語系の数え方も、日常生活で使われてきました。上の表のように、リンゴなど一般の物を数える時に「ひとつ、ふたつ」と数えます。この「つ」は助数詞(どんなものの数かを表す語)ですが、具体的な和語のさら(皿)、はこ(箱)、ふくろ(袋)などの場合、
ひと皿(さら)、ふたさら、みさら、よさら、ゴさら、ロクさら……
ひと箱(はこ)、ふたはこ、みはこ、よはこ、ゴはこ、ロッぱこ……
ひと袋(ふくろ)、ふたふくろ、みふくろ、よふくろ、ゴふくろ、ロクふくろ/ロッぷくろ……
と数えます。4までの数が和語系、5から上の数は漢語系となっているのが分かると思います。
後にくる助数詞が漢語(個、枚、件など)の場合は、最初から「一個(イッコ)、二枚(ニマイ)、三件(サンケン)」と、漢語系で数えます。
*注意点 4だけは「よんコ、よんマイ、よんケン」となり、漢語の読み方「シ」は使いません。これは漢語系・和語系ともに共通した特徴です。理由は次項参照。
人、時間、日にちはどう数えるか
人の数え方
1、2は「ひとり、ふたり」で「り」という和語の助数詞がついています。以前は「みたり、よたり」と4までは和語系でしたが、今は3から上は漢語の「人(ニン)」という助数詞を使って「サンニン」「よニン」と言います。9は漢語の読みが新旧、二通りありますので、(クニン/キュウニン)のどちらも使われます。
注意が必要なのは、先に述べた4の読み方で、「よ・ニン」が使われ、14人も「ジュウ・よ・ニン」となります。というのは、もし4人を漢語の読み方で「シ・ニン」と読むと「死人」と同じ音になってしまいます。つまり、4(シ)の音は「死」を連想させるので避けられ、できるだけ和語の「よ」を使うようになったと考えられています。
*注意点 7(シチ)も、和語の「なな」が使われることが多いので注意しましょう。それは4(シ)との混同や聞き間違いを避けるためだと思われます。
時間の数え方
助数詞が「時、分、秒」という漢語ですので、基本的に漢語系で読みますが、この場合も4と7の読み方には注意が必要です。4時4分は(よジ・よんプン)、7時7分は(シチジ・ななフン)、14分は(ジュウよんフン)と和語で読みます。
*注意点 9は漢語の読みが(ク/キュウ)と二通りあり、時は(ク)、分は(キュウ)と読み分けて、9時9分は(クジ・キュウフン)、19時19分は(ジュウクジ・ジュウキュウフン)と言います。
*1日(ついたち)は「月立(つきたち=月の始め)」の変化形で、数字ではありません。8日は「やうか」の変化形。
10(とう)までは和語系の数え方で、助数詞も日を意味する和語の「か」です。11からは漢語系の数え方で、助数詞は漢語の(ニチ)となり、11日(ジュウ・イチ・ニチ)、12日(ジュウ・ニ・ニチ)……となっていきます。
*注意点 日にちの場合も、他の場合と同じように14日、24日は(ジュウ・よっか)、(ニジュウ・よっか)と、「シ」の音が避けられています。また20日は「はつか」と言いますが、20歳を「はたち」、「十重二十重(とえはたえ)」というように、「はた/はつ」という日本本来の数え方が残ったものです。
和語系の数字の読み方は、いろいろな言葉の中に残っています。「みそ」は30のことです。年末の31日(サンジュウ・イチ・ニチ)を大晦日(おおみそか)」といいますが、30日(みそか)よりも大きい日、つまり31日を指す言葉なのです。いまでも「わたしもみそじ(三十歳)を超えてしまった」などと言いますが、さしずめアラ・サー(around thirty)という感じなのでしょう。
また、八百屋(やおや)、千歳飴(ちとせあめ)、八千代(やちよ)、萬(万)屋(よろずや)など、和語の数を使った名詞があるほか、人名では一二三(ひふみ)、五十六(いそロク)、八十吉(やそキチ)、百恵(ももエ)、千恵(ちエ)などがあります。姓では五十嵐(いがらし)、八木(やぎ)、五百蔵(いおろい)などに和語の数字を使った言葉が残っています。
一本、二本、三本は「イッポン」「ニホン」「サンボン」
ところでもう一つ、数について、学習者からしばしば受ける質問があります。それは、漢語系で「イチ、ニ、サン」と数える時、「一枚」は「イチマイ」なのに、どうして「一個」は「イッコ」となるのか? また一本、二本、三本はどうして「イッポン」「ニホン」「サンボン」と変化するのか、という問題です。日本人は小さい時から言い慣れていますから、当然言えますが、同じ「本」がどうしてこんな幾通りもの読み方になるのか、外国の人にはわかりません。
その原因は、実はやはり、古い中国語の発音にあるのです。最初に紹介したように、漢語系の数え方は古い時代の中国の音が日本に入ったものです。現代中国の共通語ではすでに失われていますが、当時の中国語では一、六、八、十の音は入声(語尾が-p, -t, -kで終わる音)で、それぞれyit, liuk, pat, jipのような音だったと想像されています。その音が日本に入って残っているのです。ですから一、六、八、十の後にくる語の語頭がkカ行、sサ行、tタ行、hハ行だと、ほとんどが促音(ツ)になるのです。
*注意点 助数詞が漢語でも和語でも同じで、八箱(ハッぱこ)、十皿(ジュッさら)となります。ただし、六(ロク)は-kなのでs音、t音の前では促音化しません。六週(ロクシュウ)、六体(ロクタイ)など。
また、「三」は当時の中国語の原音がsamだったために、その後に来る語の語頭がh(ハ行)やw(ワ行)だと、日本語でも唇音化して「三本サムボン」「三派サムパ」「三筆サムピツ」、「三羽サムバ」となります。「三位」が「サンミ」となるのはその名残というわけです。
おわりに
日本語の数の数え方は、和語系と漢語系の「二刀流」で、そのため読み方が多様ですが、それがまた利点になっていることもあります。例えば、以下に長い数字や年号の覚え方を紹介しましょう。
ルート2 √2:1.41421356=ひとよひとよにひとみごろ「一夜一夜に人見頃」
円周率:3.141592653=みひとつよひとつ、いくにむいみ「身一つ世一つ、行くに無意味」
第1回十字軍結成:1096年=じゅうじくむ「十字組む、騎士団」
中国明朝の成立:1368年=いさむや「勇むや、明の朱元璋」
歯医者の電話番号:648-4182=むしば、よいはに「虫歯、よい歯に」
いかがでしょうか? びっくりするほど簡単でしょう。こんな芸当は、数字の読み方が多様な日本語だから、できることでしょう。